SNOWFOREST

北海道でのバックカントリー、テレマークスキーの記録 etc..  from  sapporo (2017から)

羊蹄山雪崩インシデントレポート

2006年3月4日、北海道羊蹄山で遭遇した雪崩に関するレポートです。
このレポートでは、ヒューマンファクターに重点を置いた分析と原因究明に重点が置かれています。
06/07シーズンを迎えるにあたって、このレポートが雪山で活動する人々の一助になることを願って公開します。


    INDEX
     第1 事案の概要
     第2 事案の経過概要
     第3 調査した事実
     第4 調査した事実の分析
     第5 事案発生の原因
     第6 当該事案から得た教訓
     第7 まとめ
     Appendix(回想)



※本レポートは、関係者からのアドバイス等により書き換えることがあります。予めご了承ください。


第1 事案の概要

1 事案の種別
  インシデント

2 スキーヤー
  A:スキー歴28年、山スキー経験年数6年 死傷なし 装備品の損壊なし
  B:スキー歴16年、山スキー経験年数4年 死傷なし 装備品の損壊なし

3 事案発生時の日時、場所及び天候
(1)日時
 平成18年3月 4日 12時30分
(2)場所
 羊蹄山北面156の沢西側側壁、標高1410mの地点(尾根線直下5~6m) 【右画像参照(クリックで拡大)】
(3)天候
(a) 現況(当該スキーヤーの主観による。)
 ・ 標高 300~1000m 晴ときどき曇り、弱風
 ・ 標高1000~1400m 雲中(視程500m)ときどき晴れ間あり、強風、悪化傾向 【右下画像参照(クリックで拡大)】
(b) 予報
 曇りのち雪

4 行動の形態及び目的
 形態:山スキー   目的:スキー滑降
 ・当日の滑走レポートはこちら

5 事案の発生時期
  シール登坂中

6 事案の形態
  雪崩の人為的誘発


第2 事案の経過概要

1 登坂及び降下ルート図
 【右画像参照(クリックで拡大)】
 ※羊蹄山のバックカントリースキー・スノーボードにおいて一般的に利用されているルートではありません。

2 時系列的経過概要
■ 7時10分
 除雪道路終点着駐車後、準備、ルートの確認、ビーコンチェックを行った。

■ 7時40分 行動開始
 出発地点より標高1300mまでは、尾根上をシール登坂した。登坂中、数カ所の小斜面(傾斜30~40°)においてスキートラック上部への踏み込みテストを行った。
 積雪深5~10cmのところで破断は起こるものの、せん断の質は危険なものではなく、上載積雪が流れ落ちるようなことはなかった。
 安全と判断し登坂を継続した。

■11時45分 ルート変更
 標高1300m付近より尾根上はウインドクラストした状況になった。尾根上でのシール登坂は困難と判断し、沢型の中のクラストしていない斜面にルートの変更を検討した。
 変更にあたっての危険認識及びスキー滑降時の危険認識のためコンプレッションテストを行った。テストの結果、肩5回での破断を確認した。弱層は深度約50cmのところに存在し、弱層の種類は不明、破断箇所の下層はしまり雪であった。
 危険度は低いと判断し、ルート変更を決断した。

■12時00分 行動再開
 標高1400m付近で尾根に近づいた。雪質は柔らかい新雪からウインドクラスト気味に変わり、下層のしまり雪までの深さは10~15cmとなった。
 雪崩発生地点でのA及びBの位置関係は、Aは尾根の下方5~6m、Bはその後方5mであった。Aは足場確保のため、スキーを数回踏み込んだ。踏み込みとほぼ同時にBの後方3mで破断音と共にクラックが発生した。そのクラックはAの上方1mを通過し、前方3mにまで伝搬した。
 Aは約10m程度流され自力制動により停止した。 Bは約100m程度流され停止した。
 両者ともに埋没はしなかった。

■12時40分 現場検証
 自力で破断面等の調査を行った。


第3 調査した事実

1 斜面状況
  斜度:約40°  斜面方向:北東斜面(風下側)

2 雪崩の状況
(1)種類
 面発生乾雪表層雪崩
(2)破断面
 深さ:15~20cm  幅:約15m  【右画像参照(クリックで拡大)】
(3)走路の距離
 120m以上
(4)デブリの状態
 未確認
(5)弱層の種類
 未確認
(6)滑り面の状態
 しまり雪の表面に生成されたサンクラスト

3 ピットチェックの結果(破断面直上)
 雪崩発生直後、破断面の直上でコンプレッションテストを行った。テストの結果、手首による5回の打撃で弱層が破断ることが確認された。

4 天候
(1)事案発生場所付近
 第1項3(3)のとおり。
(2)天気図
 アジア地上解析天気図、アジア850hpa・700hpa天気図
 【右画像参照(クリックで拡大)】
(3)喜茂別アメダスの気象データ(平成18年2,3月)
 【右画像参照(クリックで拡大)】

5 事前準備
 出発前にルート及び登坂中止時刻等の確認等を行ってはいるものの、出発を急ぐがあまり、綿密な打ち合わせが行われてはいなかった。従って、ルート設定や中止基準についての詳細な話し合いは行われてはいない。

6 医学及び心理
(1)医学
(a)出発前の健康状態
 両者ともに摂食の問題、睡眠不足、飲酒、服薬、疲労の蓄積は認められなかった。また、健康状態の不調の自覚及び他覚とも認められなかった。(当該両スキーヤーの口述)
(b)事案発生時の健康状態
 両者ともに登坂中及び事案発生時共に体調異常及び疲労の蓄積は認められなかった。(当該両スキーヤーの口述)
(2)心理状態
 両者ともに最近の勤務及び生活状況に重大なストレスを被るような事象は認められず、精神状態及び行動の様子には、平常と変わるような点は認められなかった。(当該両スキーヤーの口述)


第4 調査した事実の分析

1 積雪構造
(1)沢型地形内の積雪の概要
 沢型地形内全般に、積雪の基底部はしまり雪により形成されていた。上載積雪は、沢型の底面から側壁にかけて新雪であり、尾根直下においてはウインドクラストした風成雪であった。上載積雪の深さは沢型の底面において50cm以上、尾根直下においては15~20cmであった。
(2)破断面付近の積雪構造
(a)鉛直方向の構造
  破断面付近の積雪構造は、下層から順にしまり雪、弱層、風成雪であり、しまり雪の表面はクラスト状、風成雪の表面はウインドクラストであった。
 2月20日~22日にかけて流入した暖気の影響で、しまり雪表面にサンクラストが生成され、その後、その上部に風成雪が堆積し、尾根直下の積雪表面には強風によりウインドクラストが形成されたものと考える。
 弱層はサンクラストと風成雪の間に存在し、風成雪の堆積前に生成された、もしくは、2月26日の気温の上昇により、積雪内に顕著な温度勾配が発生し、上載積雪と滑り面の間に生成されたものと推測する。
 弱層の種類については特定できていない。
(b)表面方向の構造
 上記要因により形成されたウインドスラブは弱層の強度に比して、格段に強度が高く、スラブ上に加えられた圧力もしくは衝撃を容易に弱層に伝搬可能な構造であったと推測する。
 また、ウインドスラブは尾根直下のノール状の地形の凸状部分に存在し、脆弱であったものと考える。
(c)弱層の破壊プロセス
 上記構造の積雪に局所的(半径5~6mの範囲)に人間2人分の荷重が加わると共に踏み込み時の衝撃が複合され弱層の破壊が始まり、その破壊は破断面全体に伝搬したものと考える。

2 気象
 事案発生場所の天候は良好ではないものの、事案にかかわる要因は認められなかった。

3 指揮管理
(1)ルート選定
(a)判断
 当初、当該リーダーは尾根上のルートを計画していた。しかし、標高1300m付近において、ウインドクラストした尾根上をシール登坂することを困難と判断した。スキーアイゼン又はアイゼンの使用により、尾根上ルートの登坂が可能であったが、スキーアイゼンは装備しておらず(Aのスキーはセンター106mmのため適合するスキーアイゼンは市販されていない。)、また、アイゼンの使用は労力が過大と考え、ルートを沢型の中のクラストしていない斜面に変更し、シール登坂を継続した。
 不適切なリスク認識、不適切なリスク評価及び不適切なリスクマネージメントが複合し適切な判断を阻害した結果、当該斜面への進入を決意したものと考える。
(b)リスク認識
 当該リーダーは、弱層テストを主なリスク認識の手段として活用している。標高1300mの地点でコンプレッションテストを行っているが、当該地点への登坂中においては、登坂時間短縮のため、コンプレッションテストに替え、簡易テストである「スキートラック上部への踏み込みテスト」を行っている。
 標高1300mの地点までのルートにおいては、危険斜面への進入計画はなく、ルートも比較的安全な森林限界下の尾根上ルートであった。
 尾根上ルート登坂中においては、その状況の危険度を判断し、簡易テストで十分であると判断していた。しかし、簡易テストでは概略の情報しか得ることはできない。継続した弱層認識及び高度変化に伴う積雪構造の変化を認識し、ルート全行程に渉るリスク評価及びリスクマネージメントを適切に行うために、適時コンプレッションテストを行うべきであったと考える。
(c)リスク評価
 リスク評価を行うにあたりコンプレッションテストの結果のみにとらわれた評価を行っている。斜面の変化に伴う弱層深度、強度等の積雪構造の変化の予測及び斜面の斜度や形状の変化等の評価要素が欠落しており、積雪構造の変化に伴う弱層の存在予測の欠如から不適切なリスク評価に至ったものと推測する。また、登坂中の踏み込みテストにおいて、クラスト面上に堆積した薄い(5~10cm)風成雪の破断を確認している。この観測結果を基に登坂ルート上の積雪構造が予測可能であったと考えるが、その実行には到っていない。
(d)リスクマネージメント
 当該リーダーは沢型地形への進入にあたり、リスクマネージメントを行っている。しかし、その際、リスクの分別に関する判断が不適切になっていたと推測される。
 リスクマネージメントを実施するにあたり、リスクの分別を行い、リスクを「必要なリスク」と「不必要なリスク」に選別しなければならない。「必要なリスク」とは目的を達成する上で避けては通れないリスクであり、そのリスクを受け入れることにより、目的達成上の利益を得ることができるリスクのことである。一方、「不必要なリスク」とは、目的を達成する上での利益を得ることのできないリスクのことである。
 本山行における目的はスキー滑降であり、登坂時の労力軽減は目的ではなく目的達成の一手段にすぎない。従って、滑降時のリスクは「必要なリスク」であるが、登坂時のリスクは、登坂の継続を断念せざるを得ない、すなわち、目的の達成を断念せざるを得ない場合を除き「不必要なリスク」である。従って、登坂時における沢型地形への進入は「不必要なリスク」であり、リスクの排除、すなわち、尾根ルートの選択をもって処理を行うことが妥当であったと考える。
 本事案において当該リーダーは、登坂時における沢型地形への進入を「必要なリスク」と分別後、リスクの許容をもって処理を行っており、不適切なリスクマネージメントであったと考えられる。
(2)雪崩発生直前のパーティー指揮
 当該リーダーは、当該斜面への進入後、雪崩発生の可能性が依然として存在するにもかかわらず、登坂時のメンバー間の距離を離す等の具体的な指示を出していない。よって、ABそれぞれの距離は通常の登坂時と同様な状態であり、局所的に人間2人分の荷重が加わることにより、雪崩誘発の一要因となったことは否定できない。
 当該リーダーはその場の判断において、危険斜面への進入を必要なリスクと分別し、リスクの許容を用いた対処を決意した。リスクの許容を選択したならば、リスクを低減させる方策を立てなければならない。しかし、メンバー間の間隔のコントロール等の方策は採られておらず、不適切なパーティー指揮であったと考えられる。

4 行動
(1)出発から標高1300mの地点まで
 行動については特に事案の直接要因となる事項は認められない。
(2)当該斜面への進入後
 前項(2)パーティー指揮で述べたとおり、当該パーティーは通常の間隔をもって当該斜面へ進入し、荷重の局所的集中を招いている。また、当該リーダーは危険斜面の中で踏み込み動作を行っている。この2つの事象が弱層破壊の要因になったと考えられる。

5 意思疎通
 ピットチェック及びルート変更判断時においては意思疎通がなされているが、当該斜面進入後、意思疎通は図られていない。両者の意思疎通により、危険状態に対する注意喚起は可能であったものと推測される。

6 医学及び心理
(1)医学
 当該両スキーヤーに健康上の問題は認められず、事案に関する医学的要因はなかったものと判断される。
(2)心理
(a)潜在的心理要因
 当該両スキーヤーに重大なストレス事象は認められず、事案に関する潜在的心理要因はなかったものと判断される。
(b)不適切なリスク認識に関する心理的要因
 当日の天候は予報が曇りのち雪であり、現況の推移からも天候の悪化は明白であった。天候の悪化に起因する時間的制約が心理的圧力となり、行動時間短縮を企図することに至ったものと考える。その結果、リスク認識の方法が簡略化(コンプレッションテストに替え簡易テスト)され、その実行が不適切なものになった可能性は否定できない。
(c)不適切なリスク評価に関する心理的要因
 リスク評価を行うにあたり、コンプレッションテストの結果のみにとらわれた評価を行っている。評価において、コンプレッションテスト結果以外の評価要素が欠落しており、不適切な注意配分が原因であったと推測する。
(d)不適切なリスクマネージメントに関する心理的要因
①成功への意欲
 当該リーダーは最近の山スキーにおいて、所謂「当たり日」をはずし、良好な雪質におけるスキー滑降を達成できておらず、当該山行に意気込みを持って臨んだと口述している。また、当日の雪質はスキー滑降に最適のものであった。
 当該リーダーの意気込み及び目的達成に伴う心理的圧力が、リスクマネージメントに影響を及ぼし、その判断が不適切なものになった可能性は否定できない。
②時間的制約
 前(b)項と同様に、天候の悪化に起因する時間的制約が心理的圧力となり、リスクマネージメントに影響を及ぼし、その判断が不適切なものになった可能性は否定できない。
(e)危機認識の低下
 当該リーダーは危険斜面において踏み込み動作を行っている。シール登坂という単純作業の繰り返しが、ストレスの蓄積となり判断力を低下させた結果、危険認識を低下させ、危険斜面における踏み込み動作という危険操作に至ったものと推測される。 

7 装備品
 本事案においては、装備品の限界(シールの登坂能力限界)をルート設定で補ったことにより、リスクを増大させている。スキーアイゼンの装備もしくは、アイゼンの使用によりリスクを回避できたものと考えられる。


第5 事案発生の原因

1 直接的原因
・当該斜面への進入
・登坂時、通常間隔の使用による荷重の局所的集中
・足場確保のための踏み込み動作

2 間接的原因
(1)ヒューマンファクター
・不適切なリスク認識
・不適切なリスク評価
・不適切なリスクマネージメント
・リーダーの指揮不良
・意思疎通の不良
・心理的圧力
・危険認識の低下
(2)装備品
 スキーアイゼンの装備、アイゼンの使用等


第6 当該事案から得た教訓

1 適切なリスク認識
 リスク認識にあたり、効果的な情報収集を行うことが緊要である。このため、事前準備段階から情報を収集しなければならない。
 行動間においては、状況の急激な変化に対応するため、継続的かつ活発に情報を収集し、機を失せずその成果をリスクマネージメントに活用することが重要である。

2 適切なリスク評価
(1)総合的判断
 リスク評価にあたって、一つの事象に捕われず、あらゆる情報(弱層テストの結果、積雪構造、斜面の斜度や形状の変化、斜面変化に伴う積雪構造の変化、現在天気、過去天気の推移等)を活用し総合的に判断を行う。
(2)情報使用時の優先順位の確立
 入手した各々の情報に対し、その情報の信頼度を決定する。それぞれの情報の信頼度に応じ、判断材料として使用するにあたっての優先順位を確立する。

3 適切なリスクマネージメント
(1)適切なリスク評価に基づく判断
(2)適切なリスクの分別
 リスクを「必要なリスク」と「不必要なリスク」に確実に分別する。
(3)リスクの種類に応じた対処
 リスクの種類に応じ、リスクの回避、又は低減を実行するための適切な方策を案出する。「必要なリスク」に対してはリスクの低減により対処し、「不必要なリスク」に対してはリスクの回避で対処を行う。

4 適切なパーティー指揮
 都度、パーティーが存在する環境の中で、少しでも安全な状態に近づけるよう、構成員に対する指揮を徹底するとともに、指揮の中断を排除する。

5 適切な意思疎通
 適時、注意喚起を行うことにより、パーティー内のフェールセーフを構築する。

6 心理的圧力の制御
 成功への意欲、誘惑、時間的制約等の心理的圧力を制御し、判断や行動を適切に行うための方策を立てる。
(1)確実な事前計画
事前計画を立てることにより、思いつきの行動を排除する。
・綿密なルート設定
・各種基準の設定
 中止基準、計画変更基準等の設定
(2)時間的余裕の確保
・行動時の時間的余裕の確保
・不測事態における時間的余裕の確保

7 危険認識の保持
(1)意思疎通による危険状態に対する注意喚起
(2)ストレス・コントロール
 ストレスの蓄積によるパフォーマンスの低下を防ぎ、危険認識を保持できる状態を維持する。

8 適切な装備品の活用
 行動にあたって、予測される状況に対応できる装備品を携行することが必要である。また、装備品の能力限界に応じた計画及び行動時の決心を行い、装備品の能力限界をリスクの許容によって補ってはならない。


第7 まとめ

 本事案のみならず、雪崩事故のほとんどの原因がヒューマンエラーに起因するものである。本レポートの作成にあたっては、特にヒューマンファクターに重点を置き分析作業を行い、原因の究明及び教訓の導き出しを行った。ヒューマンファクターを制御し安全を確保することは難しく、一朝一夕に出来ることではない。しかし、雪崩事故の被害は極めて甚大であり、人員の死傷や装備品の損壊や喪失を招く。このことからも雪山で行動する以上、雪崩回避は個人及び組織の運命を支配する重要課題であり、その鍵を握るのがヒューマンファクターの制御である。
 このレポートが雪山で行動する人々の一助となることを願って止まない。


- Appendix -

 付録として、雪崩に流されたときのスキーヤーBの体験を記しておきます。

 (回想)
 斜面を斜めに登行中、突然ビシっとした鈍い音が聞こえてきた。瞬間的に斜面上方に目をやると、自分より2mほど上方に亀裂が入っていた。
 まずいと思うや否や、その亀裂が広がり雪がスライドしてきた。破断面もはっきりと見え、「さほど深い雪崩ではない」、「踏ん張れば耐えれるか」とストックを付いてなんとか踏ん張ろうと思ったものの、予想以上に雪の圧力は大きく、次第に体が傾きとうとう圧力に屈してしまう。仰向けに近い状態で体が流される。

 スピードはあまり感じなかった。なにかドロドロとした流体に運ばれているような感覚。仰向けの体を反転させ、ストックで制動をかけれないかともがいてみるが、無駄な抵抗だった。
 常に体は雪面から出ている状態。ただ、沢のボトムが遥か下方にあり、このまま流され続けて、沢のボトムでの埋没や、立木、岩への衝突に対して非常に恐怖を感じた。滑降したことのある沢であり、地形はよく知っていた。

 シール登行中であり、ビンディングはヒールフリーの状態だったため、エッジを斜面に利かせることはできなかった。足はフォールラインに向いているが、板のトップは顔の正面にあった。
 どうしようもなく流されている状態が続いた。
 体が雪のなかに潜ったら雪面から出れるようにストックをはずそうと思ったら、だんだんとスピードが落ち、止まることができた。
 後にGPSログで確認したところ、流されていた時間は約30秒であった。

 埋没はしていなかったので、すぐに立ち上がることができた。
 周囲には非常にやわらかくて細かなデブリが散乱していた。厚く堆積してなかった。破断面が深くなかったことが幸運だった。

 Aに自分の無事を伝えようと無線を入れるが、息が上がってしまって上手くしゃべることができない。精神的に落ち着いたら無線を入れ直すと伝え(ちゃんと伝わっていたが怪しいが、肉声を出したことで無事は伝えれたはず)、尾根に移動しようとする。雪崩ないようにと祈りながら移動。

 安全地帯に移動して息を整え、再度無線を入れる。状況を伝え、Aの無事も確認。お互いに怪我はなかった。最初の無線交信時においてはAの無事を確認する余裕がなかった。
 流されずに耐えることができたAに破断面の撮影をちゃっかりとお願いして、とりあえず温かいお茶を飲み、飴を舐めた。

-以上ー
 

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たか

Author:たか
since 2003 4/1
北海道の山々をメインフィールドとしてテレマークスキーをしています。無理せず、自然体で楽しんでいこうと思います。

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